花がないのに実をつける
先日、はしりのイチジクが目にとまったので、といってデザートにイチジクのワイン煮なるものを頂戴しましたが、まだイチジクの風味に乏しく、いささかがっがりしたことでした。
子どもの頃、家の庭にあって年に一コか二コ食べた記憶があります。学生時代下宿先の庭にもあって、これは沢山実をつけていた。時々シッケイして食べたものです。皮をていねいにむいて食べる人がいますが、私は二つに割って内側から吸いつくように食べるのが好き。指にからまりついて残った皮を振り落としてから、ジーンズのお尻で拭いておしまい。これが美味しいイチジクの食べ方、というような私にはそもそもワイン煮は向かない?!
「旧約聖書」のアダムとイブのビキニだかトップレスだかに使われていたイチジク。葉の形をみれば桑科だとわかります。なぜイチジクというか、地中海地方が原産とされ、アンジール(ペルシャ語)→インジール(ヒンディー語)が唐代に中国に伝わり、中国語で表記して映日(インジン)、江戸時代の初頭に日本に伝わってイチジクと。これが一説。いまでも映日紅(果)などと書くときもあります。
中国ではすでに明代には無花果と書かれていますが、それにならって無花果。花がないのに実をつけるからこの名前ということは御承知の通り。でもあの実のうす紅色の中心は、花が密集して咲いているので、それを果として食べているのです。外に向いてたくさん小さな花をつける総状花穂の形が、中央が凹んできて周囲がもり上がり、ついに裏返って花を中に閉じ込めてしまったという形、これを閉在花穂とか隠頭花序といいます。
食品としては日本のように生食の他、地中海地方の乾しイチジクは有名で、栄養豊かでやや緩下作用があります。薬としてはやはり秋によく熟した実を天日で乾かしたものを無花果。夏に葉を採取してよく乾かしたものを無花果葉。無花果は「胃を開き病毒を解す、五痔、咽痛を治す」とありますが、胃腸の調子を整えたり、咽喉の痛みに煎じくすりとして。
葉の方はやはり煎じて痔の外用浴剤としてよく使いますし、普通に入浴剤としても使われます。いずれも漢方処方に組み入れられることはなく、単独で民間薬的に使います。 実や茎を傷つけると白い乳汁が出ますが、蛋白分解酵素があるのでイボ取りによいといわれます。ただかぶれやすいので敏感な痔に直接つけない方がいいでしょう。