利尿作用が知られる
ヨーロッパ原産でユーラシア大陸に広く分布するアカザ科の一年生草。中国のもっとも古い生薬の本「神農本草経」では、「膀胱にこもった熱をとる作用があり、小便の出をよくし、腎の気をます。さらに久服すれば、耳や目が聡明になり体が軽くなり、老化を防ぐ」とあります。このように中国でも2000年以上前から薬として栽培されていました。この久しく服すれば年をとっても体が軽く仙人のように不老不死が得られる、という記述は中国古代の神仙思想といいますが、現代人からみて、ナンセンスと言い切れるでしょうか。現代人が不老長寿を夢見て服用している降圧剤や高脂血症治療薬の方が私にはずっと神仙思想にみえます。
「箒」に使われていた
日本では平安時代の「延喜式」に「武蔵国より地膚子一斗五合、下総国から地膚子一斗を貢献する」とあり、貴族たちの薬用としてすでに栽培されていたことがわかります。江戸時代の「農業全書」には、「地膚はハハキキとかほほき草、と呼び、薬をあえ物あつ物として食用にし、種子は薬として、収穫したあとの草は乾燥して"ほうき"として用いる」とあります。学名は Kochia Scopariaで、Scoparia は「ほうき、ほうき状の」という意味ですから、洋の東西を問わず、茎や枝を乾燥して束ね、「箒」に使われていたことがわかります。最近では園芸用として玄関先などにおかれていますが、これは学名の前半をとって、コキア(人名)と呼んでいます。
ところで種子は薬用、葉は食用となっていますが、現在では葉を食べる人はいないでしょう。種子は畑のキャビアなどと呼ぶ、トンブリ又はドンブリのことです。今でも秋田や山形で栽培され、9月に小さな果実を収穫して、30分ほど煮てから水にさらすと果皮がとれてトンブリの出来上がり。スーパーや八百屋さんにあります。大根おろしや山芋(とろろいも)といっしょによく食べます。ブツブツという食感はキャビアと似ている。
種子を加熱せずそのまま乾燥したものが漢方薬としての地膚子。成分に強壮作用のあるサポニンが含まれているといわれていますが、詳しい分析はわかっていません。上記のように膀胱炎や排尿障害に効くと同時に、他の利尿薬の効果を高める作用があり、他の利尿剤と合わせてよく使われます。また「皮膚中の熱を去り、皮膚をして潤沢にする、でき物を散ずる」とあり、皮膚科の病気、最近ではアトピー皮膚炎を治す処方によく組み込まれます。