雌雄異株
猫にマタタビの「またたび」。山中で疲れ切った旅人が、この実を食べると元気百倍。再び歩き出すから「又旅・またたび」という名がついたという俗説がありますが、アイヌ語のマタタンプ(冬に木にぶら下がっている苞[つと])が語源とされています。苞とは藁でできた魚などを包むものですから、ちょうど蓑虫のようにぶら下がっている、という意味でしょう。
日本各地、朝鮮、中国東北部に自生するマタタビ科の落葉つる性の木本で、高さ5メートルくらいになり、他の樹木などにからまって成長します。雌雄異株で、雄木では花期の初夏に葉がロウをかぶせたように銀白色に変化し、山中でも目立ちます。花が終わるともとの緑色にもどりますが、英語でSILVER VINE、銀色の蔓、というのはこの白変した姿をあらわしているのでしょう。花は雄花も雌花も経2センチくらいの白色で、姿も香りも梅の花に似ています。果実はいわゆる液果(ベリー)で、長さ2~2.5センチ、経1センチくらいの長楕円形。 旅人のようにそのまま食べたり、塩蔵して保存食にしたり、新芽は山菜になります。
猫および猫科の動物の好物で、下痢などを自ら治しているようですが、あきらかに麻酔作用があり、涎を流し、興奮・陶酔状態になるのはご存じのとおり。猫にとっての万能薬という意味で、猫人参とも呼ばれます。
マタタビの花の子房にマタタビアブラムシが産卵すると、果実は異常発育して、表面がでこぼこした、いわゆる虫こぶとなります。これを集め熱湯をそそいで中のアブラムシを殺して乾燥したものが、生薬の木天蓼(もくてんりょう)です。場所によっては一株のマタタビの実の80パーセントもアブラムシの寄生でこの虫こぶになるといいます。葉の白変はこのアブラムシの寄生と関係があるらしいといわれています。
「マタタビは冷えを温め手足など痺れ痛むに少しく食うべし」と江戸時代の和歌本草にあるように、普通の実をマタタビ酒にしたり、虫こぶを同じように薬用酒にしたり、浴剤にしたりして利用します。山国の木こり達は身体が冷えるので、この木天寥酒をふくべ(水筒)に入れて山にはいったといいます。マタタビ酒はアニマルファームでも作りましたが、味がおいしくないので、評判はいまひとつです。中国の古典にも、マタタビの蔓や葉を薬酒にした「木天寥酒」があり、中風(脳卒中)などに使われました。
同じマタタビ科の中国原産のシナサルナシは果実が美味で、これをニュージーランドで品種改良したものがキウイフルーツです。これも雌雄異株ですから、数本の雌株に一本雄株を植えなくては実がなりません。