104.ナツメグ(肉豆蒄・肉果・メース)—漢方的効能は温裏、去寒、収渋—

芳香性健胃薬としても

ナツメグは、胡椒(ペッパー)、肉桂(シナモン)、丁子(クローブ)と共に世界の4大スパイスの1つとして、広く世界中で用いられています。インドネシアのモルッカ諸島が原産地で、紀元前からインドやアラピアで頭痛薬や媚薬として、宗教儀式のお香として使われてきました。ヨーロッパでも13世紀、ローマのヘンリー6世の即位式には町中にナツメグをふりまいたそうです。一般のヨーロッパ人に広まったのは、16世紀の初頭にポルトガル人がこの島を発見して以来。この海域はナツメッグ諸島と呼ばれ、肉の保存料として欠かせないナツメグをめぐってスペイン、オランダ、イギリス、フランスと争奪線がくりひろげられ、栽培も熱帯各地に広まりました。

ニクズク科のニクズクは高さ20mにも達する熱帯性常緑の喬木ですが、淡黄色の鈴形をした小さな花をつけ、野百合に似た強い香りを放つので、森の中でニクズクの木を捜し出すのはいとも簡単であると言われます。経験してみたいですね。日本でも19世紀に栽培が試みられましたが、残念ながら気候的に無理だったようです。堅い多肉質のアンズに似た黄色球形の果実をつけ、熟した果実は2つに割れ、その割れ目から深紅色の網目状の膜(仮種皮)で包まれた濃褐色の種子がのぞきます。この網目状の皮膜が香辛料メースで、種子の中の仁を砕いたものがナツメグです。

肉料理によく合うナツメグはその甘い刺激性の香りとほろ苦さで肉の生臭さを消し、冷蔵庫のない時代には肉の保存剤として、現代ではハンバーグやソーセージ、シチューやカレー、ソースなどには欠かせないスパイスです。メースも同様ですが、より繊細な香りと味で一段高級と言われます。

中国にも10世紀前には伝わっていたらしく、漢方薬としては、ニクズクと呼ぱれます。なんだか奇妙な名前ですが、種子の形が、ショウガ科の漢方薬、草豆冠(ソウズク)と似ていて、果肉が多いから肉豆冠、または肉果と名付けると古書にあります。
メースは上述のようにナツメグを包んでいるから肉豆藏衣。漢方的効能は温裏、去寒、収渋といわれ、胃腸を暖めて下痢などをなおす芳香性健胃薬として漢方処方に配合されます。太田胃散やパンシロンなどの家庭薬にも調含されています。なお大量に服用すると幻覚作用があることも知られています。