86.大豆(納豆・香鼓)—日本の食生活に欠かせぬもの—

美味で馴染み深い

ふだん、枝豆、五目豆、豆腐、納豆、味噌、醤油、黄粉として私どもに馴染みふかい大豆もまた、昔から漢方薬として使われてきました。
大豆の原産は中国大陸北方で、日本には7~8世紀にはすでに伝わっており、裁培もされていたようです。納豆、豆腐などの加工食品も中国から伝わり日本の食生活には欠かせぬものになりました。欧米にはずっと最近、18世紀になってから日本・中国から伝わったのですが、今やアメリカが世界一の大豆の産地で、日本の大豆も国産は微々たるもので、ほとんど輸入されているのは御承知の通りです。ちなみに英語では大豆のことを醤油の豆(Soy-beans)といいます。

私は納豆ゴハンが大好きで、これを食べると体力が充実した感じがします。また冬の晩、納豆を刻んで豆腐といっしょに味噌汁にした、まさに大豆オンパレード汁は確かに身体を暖めるだけでなく、体力気力を向上させるような実感があります。

漢方薬としての大豆は納豆のこと

古人も、大豆には食品として意外にも様々な霊力を感じとっていたようで、炒めた大豆を熱いまま酒の中に入れて飲むと麻痺がとれるとか、豆を発芽させてモヤシをいって粉末にしたものは関節痛に効くとか、いろいろ古書にあります。

中でも面白いのは大豆のもっている百毒を消すという効能で不老長寿に挑戦して、水銀などの鉱物生薬を服用した昔の皇帝貴族、仙人指向の知識人たちが、その副作用でまいっちゃった時、大豆モヤシの粉末を求めたということです。他に鬼毒を消すというと、節分に「鬼はそと」と大豆をまく理由もわかります。

漢方薬としての大豆は納豆のことで、香鼓(こうし)とか豆鼓とかいいます。
塩入りと塩なしと2種類あり、薬用には塩なし納豆の淡鼓です。古書には「一晩水につけた大豆を蒸してからゴザに広げ、まだ暖かいうちにヨモギの草で被え。3日に一回づつそっと覗いてみて黄衣が上一面を被ったとき、また水を加え瓶の中へ入れ、こんどは桑の葉でふたをして密封しろ。こんな作業を7回くり返すとできる」とあります。植物についている発酵菌を利用したずいぶん手のこんだ納豆づくりです。
古書では、クチナシの実とこの香鼓を組んで、梔子鼓湯という処方があり熱病の経過中に使っています。