膠にすると薬効が上回る
以前スッポン鍋の前に、生血を盃に一杯頂戴したことがありますが、若かった為か何が有難いのか分からなかった。
中年になった今ならどうでしょうか。中国の古医書には、四ツ足ならテーブル以外は何でも口に入れるというお国柄だけあって、亀の項だけでも十数種類がクスリとして紹介されてます。
その中にこんなことが書かれています。「亀と鹿とは、いづれも霊妙な生き物で長寿である。亀は首を腹におさめるから、任脈(体の前面、お腹側、漢方ではこれを陰の側ともいう、を流れている脈)を通じるから陰(血や骨や肉)を養うのだ。鹿は鼻が反り返って背中の方を向いてるから、督脈(体の背面、漢方ではこれを陽の側という、を流れる脈)を通じるから陽(命、精、気)を養うのだ」と。鹿はその角を漢方薬として用いますが、それは陽を補う。
例えば陽根が最近元気のないお父さん。鹿角を服用すれば陽気は確かに補充されるが、充満するべき血がそもそも枯れていては何にもならない。スッポンでも食べて陰を補わねば、というわけです。それじゃ両方というわけで、亀鹿二仙膠という欲張りなお薬があります。
さて亀の方ですが、漢方の市場には普通二種類が流通しています。ひとつは別甲。本来は鼈甲ですが漢字が難しいので、別甲。スッポンの甲羅です。主として背側の甲羅を使います。別甲といっても、くし、かんざしなどのいわゆる別甲細工の別甲とは違います。別甲細工は海ガメの甲羅です。スッポンの甲羅はもっと軟らかく、これを様々な植物性の生薬と共に煎じるのですから、まあスッポンスープという薬膳といってよいでしょう。先述したように、滋養強壮のうち、特に陰を補う、補陰作用がつよいといわれます。
もうひとつは亀板。これは日本各地、中国などに普通に分布しているクサガメの甲羅。クサいのでクサガメ、甲羅にはスッポンと違ってはっきりした亀甲形があるのは御存知の通り。ふつう腹側の甲羅を用います。薬効は、別甲とほぼ同じ。陰を補う為の薬に配合されます。
別甲も亀板も煮つめて膠にしたものを、別甲膠、亀板膠といい、膠にすると薬効が上回るといわれます。先述の亀鹿二仙膠という方剤は、その名の通り鹿角の膠と亀板の膠を合わせて用いたものです。